January 21, 2007
黒山の鳥だかり●
向かいのスミレさんは、昨年11月、97歳の天寿を全うした。スミレさんの残した庭には柿ノ木があって、去年は驚くぐらい沢山の実をつけた。
雪掻きもする元気な人だったが、去年の夏頃からとんと姿を見なくなった。ボケて、入院していたらしい。入院してからボケたのかも知れないけれど。
今となって考えると死を目前にして恍惚の人となったことは、長いこと生きてきたご褒美に、神様が死の恐怖を取り払ってくれたんだろうか。
彼女が常々、死を恐怖の対象にしていたかは分からないけれど、自分は 死を怖いと思っているのでそんなことを思ってみた。
スミレさんのお葬式が済んでも、正月が過ぎても、柿の木は鈴なりに実っていたが、青いままに寒くなったせいか、ちっとも赤くなかった。
実はそのうちに、柿ノ木の幹と同じ褐色になってしまった。真っ白な雪に照り返す煌めく日光があたっても、シルエットだけの、なんだか地獄の入り口のような、そこだけが別世界のようだった。
しかし、そこは数日前からにわかにざわめきだした。果実が増えたかのように見えたのは、同じように褐色の鳥達が集っているからだった。
熟さず色気も無く只沢山実っただけのスミレさんの柿は、寒風にさらされて美味しい干柿に化けて、鳥達のご馳走になったのだ。
黒い立ちんぼうのシルエットを毎日眺めていた私は、お向かいの大きく開け放った窓から見えないスミレさんがあの上品な笑顔で眺めているような気がした。
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