November 26, 2006
亀蔵日誌
亀蔵は、座敷牢の高窓から十三夜の月を見上げていた。月光に照らされたプロフィールには、春先までの青黒さは消えている。最初の手術から半年が過ぎ、医者の告知どおりにその変化は訪れた。手鏡を持ち上げ、満ちきらぬが十分な月の明かりでまじまじと顔を見つめた。
女房が亀蔵を呼んでいる。おう、と返事をし、首に掛かった鎖を外し、跨っていた三角木馬をそろっと下りた。
もう一度手鏡を覗き、ふーっと長い溜息の後、手かせ足かせをはずし、それをきちんと元の場所におさめた。
格子の戸を開け、部屋の外から閂をはめ、たたんでおいた着物をまとった。
伊賀の亀蔵は忍びの血が流れている。
定期的に訓練と称して自ら座敷牢で鍛えているようだ。
が、現代そのような指令は亀蔵には来ない。
まったく彼の趣味の部屋になっていた。
そして亀蔵は、女房に頭が上がらない。竹屋の家の、亀蔵自らセットした竹のトラップを己の尻に刺し、万事休すを助けてもらったのは、まだ蟋蟀(コオロギ)の鳴き交わす九月のこと。
日の出に照らされたあの時の女房の般若のような顔は、時々夢にうなされる。
亀蔵、ぶるっと身震いし、遅い夕食の膳についた。
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