October 26, 2006
亀蔵日誌 亀蔵の不幸
夜明けまで時間が無い。また暫く此処には来れない。亀蔵は計画通り、今度は家の反対側から抜け出ようと思った。そこには自分で作ったトラップがある。自分が守れない分、しっかりと外敵除けをしておきたかった。そこんとこは非常に責任感が強い。帰るほうの芝生を見ると、なにやら赤いものがちらちら見える。未だ深い闇の中、ちょとした明かりも恋しくなり、夏の羽虫のようにそれに近づいていった。
おお、暖かい。炭の匂いじゃ。姐さん火の始末もせんで寝てしまったのか。 と、一歩踏み出した途端、向う脛をしたたかに打ちつけた。バーベキュウコンロだった。叫び声を噛殺し倒れそうになって真っ赤に熾きた炭の入った七輪に突っ込みそうになり、ヤッとかわして、やれやれと思ったその足元には、パークゴルフ用のホールがぽっかりと口を開けていた。 もちろん彼の地下足袋の足はずっぽりとはまってしまった。
もう腰砕けの亀蔵は泣きそうになった。とにかくこの家を出よう。
夢中で駆け出したのは気持ちだけ。身体はついていけない。薔薇の棘で引っかき、物干しのコンクリートの台につまずき、彼の中でもっとも重要なトラップの脇を過ぎた。
なんとそこには般若のような形相の女房 忍が待ち構えていた。
亀蔵はひるんで後ずさった。
自分でこさえたトラップの、鋭く尖らせた竹の一本が、尻に思いっきり突き刺さったのだった。
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