July 17, 2006

亀蔵日誌 ちづるの事件簿

 深い海に眠れる感じ。心地よく、時間、空気、寝具、周りのもの全てが、疲労困憊した身体を そっと 守るように まったりと 纏わり付く。
 携帯電話着信音6番は、その最も深い眠りを無残に切り裂いた。  8時41分。 ちづるにはまだ十分に深夜帯である。
 液晶画面には、阿部慎太郎様 とある。 一昨夜、執拗な誘いを断った店の客であった。 寝起きの擦れた声で、もしもし、どうしましたか?と言った。
 彼は、直に本題に入った。「ママ、昨日俺はちゃんと一人でホテルに帰って寝たよね。ママは、泊まりになんか来ていないよね。」 あれほど執拗に誘った彼の作戦は失敗に終わっていたので、かえって彼の声は実際強きだった。 「ちゃんと妻に話してくれないか。」
 向こうの声が、女性に変わった。若くて張りのある聡明そうな声が響く。 「主人を問い詰めました。何もないと言うので、それなら そのひと に電話しなさいと言いました。」 ひとしきり それまでの経緯を話してとりあえず気が済んだのか、彼女は「朝早くすみませんでした。」と受話器を置いた音がした。

 ちづるは、なにがなんだか解らぬままに、考えるも面倒で また深い眠りに落ちていった。

Posted by tomoko at 03:14 AM | from category: 亀蔵日記
Comments
No comments yet
Trackbacks
トラックバック
このエントリにトラックバックはありません
このトラックバックURLを使ってこの記事にトラックバックを送ることができます。 もしあなたのブログがトラックバック送信に対応していない場合にはこちらのフォームからトラックバックを送信することができます。.