June 26, 2006

亀蔵日誌 生い立ち

 伊賀 亀蔵。伊賀、今の三重県出身の彼はまさに伊賀忍者の末裔であろうと推察される。
 私生活はまったく謎に満ちている。無駄口をきかず、黙々とこなす計画的な仕事にまず間違いはない。一言頼んだらこちらの意向を汲み取り腹を読まれているようでそら恐ろしく感じることもある。
 いつから竹屋の家に出入りしだしたのか、ちづるは知らない。 自分の仕事ばかりかまけていたが、そろそろ家のこともしっておかねばと考えたら、亀蔵がいた。
 亀蔵の血には、戦国時代からの忍びのDNAが脈々と受け継がれているのだろうと ちづるは解釈した。だって、あんなに痛いこと普通の人は我慢できない。きっとどんな拷問をうけても口を割らない強さがあるんだわ。
 そんな ちづるの意向を知ってか知らずか、亀蔵は精力的に庭仕事をこなした。
 やがて半年後に現れる白くて美しい肌を想いながら、黒い痣に日焼け止めクリームを、たっぷり塗りこみ、まるで太陽に挑戦するように夏の日差しを燦々と受け止めた。

June 24, 2006

亀蔵日誌

 たまたま ちづるの左手首には生ゴムが一本はまっていた。ちづるは、手首の内側部分を引っ張って放した。バッチンと威勢よく軟らかい皮膚を打ちつけた。ものすごく痛い。数秒後には綺麗な色にミミズばれができた。
亀蔵も、花鋏をパッチンとならした。 何本も何十本もばっちんバッチン思いっきり引っ張って打ち付けられる痛みを思い出すように、かれは、恍惚とはさみを鳴らし続けた。
 姐さん、ものすごく痛いでしょ。翌日は腫れ上がります。血糊がガーゼにくっつくし腫れが引くまで包帯ぐるぐる巻き。直りかけ、痒くとも掻かないように三日間は仮面のお世話になります。
 紫外線は、いけないんで、それからは日焼け止めクリームを塗ります。最初の手術から半年で見る見る白くなるそうです。せっかくですからね、一番高いクリームにしました。あれは変に白塗りにならないから自然で誰にもわかりませんよ。
 彼は懐から鏡とそれをひょいと取り出して、痣の部分に丁寧にぬりだした。
 ちづるの手首には一本の桃色の線がなかなか消えずに残っている。つづく


June 23, 2006

そうよ、あや、川口君まぶしい。

 おかしいな。夏が来ない。雨ばかりだ。
 中田君、倒れこんだまま空を見つめいったいなにを思っていたのか。終わったね。さて。。。

亀蔵日誌 告白編
 亀蔵はゆっくりと立ち上がり、イチイについた枯れ枝を払いながら目深にかぶった帽子を脱いだ。振り向きざまに、姐さん、これを取ってしまおうと思いましてね。
 亀蔵の右額からまぶたを通って頬にまで、大きく黒い痣があった。いつから生まれいつの間に顔半分に広がったのか彼も覚えていない。
 別件で行ったお医者に紹介されました。もうすでに2回手術をうけましたよ。 あら、ぜんぜんお変わりありませんのね。どんな風?なにをするの?
 ええ、そりゃあ拷問です。痛いなんて半端じゃない。なんだか透明なシールを張り詰めて、2時間貼ってりゃ麻酔になるとか言われましてきっちり張りました。いざ、レーザーを撃つと恐ろしく痛い。まるで、輪ゴムを思いっきり引っ張って機関銃のように連続パッチンでした。血は吹き飛ぶわ、叫びたくなりますよ。
 他に麻酔なんてないの?あなたの苦しいお顔見て、お医者さん手元が狂わないのかしら。
 物語る亀蔵の瞳が輝きだした。
  

June 19, 2006

単発不定期連載小説  亀蔵日誌

 亀蔵は、竹屋の家の縁台に腰掛け昼の弁当を食べていた。彼には、着物の染み抜きという本職があるが、時勢柄めっきり仕事も減り、庭仕事やら雑用で小遣い稼ぎをしていた。 そこに、女主人の娘の千鶴がお茶を運んできた。 
 姐さん最近お店は繁盛してますか。それがね、亀さん、夏が来たっていうのにちっともよくないのよ。おっきな会社はボーナスが出てるとこも結構あるのにね。千鶴は大輪の牡丹を背負って妙に艶かしかった。
 普段は無口な亀蔵だがはついあることを告白したくなった。最近の彼は、ある決意とそれを実行にうつした自分を誇らしく思い、だれかれなく語りたくなるのをじっと我慢し続けていたので、千鶴の聞きたがりのいたずらな瞳に誘われ、とうとう告白してしまうのである。
 じつは姐さん、聞いてください。
 千鶴は盆を置いて、縁側の籐の椅子に深く腰掛けた。 つづく