January 10, 2007

亀蔵日誌

 しかしこの4度目の手術は形も気持ちも今までとは違っていた。
 亀蔵は、術前に医者に懇願した。麻酔はしたくない。だが回を重ねるにしたがってあの激烈な痛みが心底恐ろしく、つい身悶えて先生の手元が狂っても申し訳ない。どうかこの身を拘束して欲しいと、取り出した荒縄で自ら両足首を結わえた。それから縄を差し出し、両手首を結わえてくれと差し出した。
 医者は、くぐもったその低い声と小さな瞳の怪しい光に惑わされたように、そのごつい両手首を縛り上げた。
 ついでに写真を1枚撮ってくれという頼みには やっと我に返り、断固撥ね付けた。
 SMプレイではないのだ!一括した医者の両目に一瞬赤い炎がちらついたのを亀蔵は見逃さなかった。
 そして、レーザー光線は放たれた。気のせいかいつもより念入りに数多く打たれているような気もする。
 激烈な痛みが体を硬直させ何度も気を失いかけながら30分程のレーザー照射が終わった。
 終わりました。ありがとうございます。医者の声も、亀蔵の声もかすれ二人の鬩ぎ合いは幕を閉じた。
 亀蔵の頬を幾筋も鮮血が伝い、彼はついに落ちていった。看護婦ももはや起こそうとはしない。
 疲れ切った戦士に無言で優しく包帯を巻きつけた。

January 09, 2007

亀蔵日誌

 師走に入り、ちづるは忙殺されていた。あれもこれもと膨らんだ頭は今にも爆発寸前だった。
 ふと帳面から目を離し庭先を見ると、雪の無い風景があり、冬囲いの縄のくくりが気にかかった。亀蔵とは比べ物にならぬほどキッチリと芸術的な縛りだった。彼は庭師ではなく、何でも一応に出来る器用な男だった。
 ああ、亀さんはどうしているのだろう。ちずるは気になったら、いてもたってもたまらずに手紙をしたためた。
 今年は雪も少ないらしく、屋根の雪もお隣にはかかりそうもありません。亀さんが来られなく困っていたので、丁度良かったかもしれませんね。ところで腰の具合は如何でしょうか?リハビリ頑張って下さい。お庭仕事が出来るのは来春のことかしら。というような内容だった。

 亀蔵は奮起した。姐さんに誉められる仕事がしたい。そして、例の妙なトレーニングルームで吾身を責めつつ
鍛えつつ、第4回目の手術日を迎えたのだった。
 今、亀蔵はちづるの手紙を懐に忍ばせ白い天上を見つめている。やがて、看護婦は彼の目を塞ぐ。そしてそれが始まるのはほら、すぐのこと。
 亀蔵は武者震いした。