July 25, 2006
亀蔵日誌
日曜日、竹屋の婆はちづるを供に亀蔵の入院先を訪れた。竹屋の仕事を頼んだときは、四季を問わず亀蔵の昼飯には大抵 鰻重を用意していたので、この日は丁度土用の丑の日に当ったので、見舞いの品は鰻弁当にした。桜の樹から落ち、結局腰の骨を折る重症をおった亀蔵の入院は長引いていた。
婆は鰻重を差し出しながら、亀さん、如何ですかと訊ねると、亀蔵は満面の笑みで、そしていつもの 『くぐもった声』で、ああ、鰻ですか。土用の丑ですね。こいつは暫くお目にかかっていない。ご馳走だ。と、ベッドの脇机に嬉しそうに置いた。 へい、日一日と痛まなくなってきましたよ。で、お庭はどんな風ですか。と残した仕事をずいぶん心配そうに聞いた。
婆は、あんた そんなこと気にしなくていいから早く治しなさいよ、と言い、ちづるは その後ろで静かに『百合の花』の様に佇んでいた。二人で夏の薄物を着た『小粋な』姿の見舞い客は大部屋の他の入院患者になんだか誇らしく感じた。
そして小声で 姐(ねえ)さん わしの顔どうですか、と訊ねた。