June 19, 2006

単発不定期連載小説  亀蔵日誌

 亀蔵は、竹屋の家の縁台に腰掛け昼の弁当を食べていた。彼には、着物の染み抜きという本職があるが、時勢柄めっきり仕事も減り、庭仕事やら雑用で小遣い稼ぎをしていた。 そこに、女主人の娘の千鶴がお茶を運んできた。 
 姐さん最近お店は繁盛してますか。それがね、亀さん、夏が来たっていうのにちっともよくないのよ。おっきな会社はボーナスが出てるとこも結構あるのにね。千鶴は大輪の牡丹を背負って妙に艶かしかった。
 普段は無口な亀蔵だがはついあることを告白したくなった。最近の彼は、ある決意とそれを実行にうつした自分を誇らしく思い、だれかれなく語りたくなるのをじっと我慢し続けていたので、千鶴の聞きたがりのいたずらな瞳に誘われ、とうとう告白してしまうのである。
 じつは姐さん、聞いてください。
 千鶴は盆を置いて、縁側の籐の椅子に深く腰掛けた。 つづく